2012年12月27日木曜日

『トートロジーの意味を構築する』


こちらは12月に刊行された書籍です。

トートロジーとは「同語反復文」のこと。
「猫は猫だ」とか「イチローはイチローだ」など、普段よく使う言い回しです。

ひさしぶりにイチローがヒットを放った。
「やっぱりイチローはイチローだなあ」

と言われると「そうだねえ」と言いますよね。
よく考えると「イチローはイチローだ」は文としては変ですよね。イチローはイチローなのは分かりきったことだから。
でも「イチローってすごいなあ」というその意味は伝わりますね。
じゃあなぜわざわざ、そんな言い方をするのか…

というところから本書のトートロジー論が始まります。
ふだん言語学の本を装丁することがあっても、専門的で難しいことが多く
読めないことが多いのですが、この本は読みたくなる出だしです。

アマゾンでも絶賛のコメントがついているようですね。


著者の希望で、カバーにモジリアーニ「大きな帽子をかぶったジャンヌ・エビュテルヌ」を使いました。
著者はパリで本書に書かれているトートロジー論の着想を得た当時、モジリアーニ展に行ったそうです。
そのときにフィガロ紙の記事のキャプションに「アーモンドみたいだけど、目は目だ」(モディリアーニはそのワンパターンなスタイル(アーモンドみたいな目)ゆえに批判されてきたが、だからと言ってモデルの個性が損なわれはしない)とあったそうです。
そう、トートロジーですね。
それでモジリアーニを使うことになったのです。 
カバーソデにその文章を入れました。


でもこの絵を単純に据えただけでは、顔にばかり注意が向かってしまい、美術の本に見えてしまうという危険も。
なのでデザインで工夫してほしい、というオーダーが届いたのですが
絵そのものを加工するわけにもいかないし…

というわけで考えたのが、絵を中心付近でトリミングして繰り返すことです。
「絵が主役」じゃなく見せつつ、なおかつトートロジー=同語反復文をイメージさせるという方法でした。
中心付近でトリミングすると絵としては不安定になり、主役にならないだろう発想でした。
そのぶん小さいながらタイトルも引き立ち、いい仕上がりになったと思います。

用紙
カバー:MTA+ FS *グロスPP加工
オ ビ:パミス/純白/四六判Y目100kg
表 紙:アラベール/ウルトラホワイト/四六判Y目110kg
見返し:新星物語/チャコール/四六判Y目110kg



2012年12月23日日曜日

カンバセーション「横尾忠則×和田誠」



先日、横尾忠則×和田誠のトークショーに行ってきました。これは「田中一光とデザインの前後左右」という展示の関連プログラムとして行われたもの。

http://www.2121designsight.jp/program/ikko_tanaka/events/121215.html

横尾さんと和田さんは同じ年なんですね。
駆け出しのころ、横尾さんはイラストレーター・デザイナーとして、和田さんは部下として田中一光さんと関わっていたとのこと。

二人の口からは、「一光さんに怒られた」という話のオンパレード。喫茶店で「珈琲でいいです」と言っては怒られ、灘本さんに軽口をきいたといっては怒られ…
しかし嫌な思い出ではなさそうで、楽しそうに話していました。
「こういう話ができるのも一光さんならではだなあ」とお二人は言っていました。
もちろん絵やデザインの話もたくさん。

とにかく印象に残ったのは横尾さんの天然ぶり。
笑わせようとはいっさいしていないのに、笑うしかないトーク。
爆笑の渦でした。なんなんでしょうか、あれは。
もちろん相手が旧知の和田さんということもあったでしょうが。
気難しそうなイメージがあったのに、完全に覆りました。
和田さんもちょっとおいていかれてましたね。

終わりの時間が迫り司会者が「ではそろそろ締めの時間と…」というと
「え? 一光さんのこともっと話さなくていいの? いろいろあるよ」
「では最後にひとつお願いします」
「いきなり言われても思いつかないよ、なにかヒントがないと」
…おいおい。

しかしその話が面白く、和田さんも負けじと一光さんのエピソードを繰り出し、さらに横尾さんも…と、終わった頃には90分の予定を30分近くもオーバーしていました。

とても楽しくためになるトークでした。
(もちろん展示も)
誘ってくれたイラストレーターのOさん、ありがとう!

2012年12月19日水曜日

『勝率90%超の選挙プランナーがはじめて明かす!心をつかむ力』



選挙が終わりましたね。
あまり期待の持てなそうな結果に個人的には残念なのですが、じゃあどうなったら良かったのかと言われるとこれまたいい答えがないという、行列に並んで投票したのになんともやりきれない選挙でした。

2年ほど前の本ですが、選挙つながりで紹介します。

著者は、石原慎太郎都知事や森田健作千葉県知事などの選挙を手がけた「選挙プランナー」。
キムタクのドラマ『CHANGE』の指導もしたそうです。

内容は選挙に出る人のためのノウハウというわけではなく、ふだんの仕事や生活に役に立つ「心をつかむ」術について。(まあ選挙に出る人は多くないですからね)
「選挙戦でこういう方法を使うのか」と知れば、惑わされずにすむかも知れません。

カバーは、文字のみで構成。
色は焦げ茶(DIC2429)+イエロー+バーコード用のスミの3色。
焦げ茶はスミでもよかったけど、怪しすぎるかもということでナシに。
でも「心をつかむ」というタイトルにはそこはかとなく怪しさもあって、そのイメージを利用して目を引きたいという目的もあり、あえて明るく・さわやかな感じにはしませんでした。
マットPP加工でやや落ち着きを持たせました。

 

本文組もデザインしました。


まとめのマークと章扉はたすきのイメージで。


中のイラストは江口修平さん。


第5章「人の心をつかむために演じきる」
自分にはなかなかムズカしそうです。

2012年12月3日月曜日

「信頼と裏切り」尾道市立大学美術学科 特別講演



尾道市立大学で「信頼と裏切り 〜編集者がデザイナーに求めること〜」と題した講演をしました。

これは通常の講義とは別に、実際に働く人が制作現場での経験を話すというもので、美術学科教授に就任した野崎眞澄さんが企画したもの。

野崎さんが旧知の日経BP社編集者・柳田俊彦さんと(ついでに)私にも声をかけてくださって、特別講演プロジェクトの第1回めとして行うことになったのです。
「初回で今後の成り行きが決まるから、よろしくね」
…ってプレッシャーかけすぎですよ、野崎さん。
いつのまにかポスターできてるし。

今回よばれた私たちは、書籍編集とブックデザイナーの現場を話しました。
「信頼と裏切り」というタイトルで柳田さんがアウトラインを作ってくれました。
編集者が何を求めてデザイナーに発注するのか、デザイナーはそれにどうやって応えるのか。ラフ案と出来上がった本など実例を見せながら話します。

「信頼と裏切り」というのはちょっと刺激的なタイトルですよね。
裏切られたら困るでしょ…とかふつう思うし。
もちろん聞けば納得の話です。

リハーサルをやり、直前まで内容を手直ししたり、昨年ギャラリーダズルで展示をした卒業生の友田萌衣さんにアドバイスを求めたりして準備を整えました。

行ってみると大きな教室。次々に学生さんが集まり100人ほどに。
このくらいの人を前にするとやっぱり緊張しますね。
思ったように話せないし、進行を間違えるし。
もっと具体的に話せばよかったとか、反省しきりです。
それでもまあ、少しでもどこかに残って、あるときふと思い出してくれたらいいなと思います。

そして夜は、野崎教授をはじめ美術学科の教授の方々と宴会に。
そういうときにありがちな「それ学生に聞かせてやりたかった〜」という面白い話が出て来たりして。
あとの祭りってやつですな…

翌日は夕方近くまで尾道を散策して帰りました。
(そのときのことはまた後日)
話には聞いていましたが、いいところでした。
坂道で膝をやられましたが。
神様ですよ、エレベーターとエスカレーターを作った人は、ええ。

それにしても、めったにない経験でした。
自分としてもデザインのことを考え直す機会になり、尾道を訪れることができたのもよかったです。

機会をくださった野崎教授と尾道市立大学のみなさまに感謝です!