2012年7月1日日曜日

『大人の「運動音痴」がみるみるよくなる本』


深代千之=著『大人の「運動音痴」がみるみるよくなる本』(すばる舎)です。
装丁と本文デザインを担当しました。

タイトルと『「運動神経がない」は、思い込みだった!』というキャッチコピーを見てわかる通り、大人のための運動能力アップの本です。
私は運動神経があるほうではない大人ですが特に困らないし、どういうひとが読むのか? と思いましたが、子どもと一緒に楽しみたいお父さんという層があったんですね。
まあ、大人になったらスポーツなんて好きにやればいいじゃん、と思っていても
いざやってみてうまくいかないと面白くないですしね。ひとと一緒にやる競技だと特に。

この本は、運動神経は生まれつきというのは誤解で、いくつになっても身に付くものだと解いていき、簡単なワークや競技別のポイントが紹介されています。
真剣にスポーツ上達を目指すというより、運動音痴を解消して楽しめるようになりたいというひと向けです。

取り上げているスポーツが球技なので、ボールをイメージした円形をモチーフに、サッカーや野球のピクトグラムを入れました。

運動の本といっても、運動音痴を自認するひとが手にとってくれるようなハードルの低さを目指しました。


『石坂洋次郎「若い人」を読む 妖しの娘・江波恵子』





















久しぶりの更新になってしまいました。
いくつかアップしようと思いますが、まずは最新刊から。

柏倉康夫=著『石坂洋次郎「若い人」を読む 妖しの娘・江波恵子』(吉田書店)を装丁しました。
石坂洋次郎『若い人』といっても知らないひとも多いと思います。昭和8年に「三田文学」で連載され12年に刊行され当時はベストセラーになり、その後何度か映画化された小説なのですが、近年はあまり注目されず文庫本なども品切れ状態です。
でも私はなぜか知っていました。

この物語の舞台は北国の旧制女学校で、若い国語教師と同僚の女教師、そして女学生(これが江波恵子)をめぐる話です。石坂洋次郎自身の秋田県横手市での教師の経験が色濃く反映されているのですが、私はその近くの出身なのです。地元で文学の話になると、『若い人』を書いた石坂洋次郎はあそこの学校にいたひとだよ、というように名前が出ていたのです。
といっても『若い人』は呼んでいませんでした(汗)
なんというか、戦前の小説で古くさい感じがして、若い頃はあまり興味が持てなかったのです。77年には桜田淳子主演で映画化もされたのですが。(ちなみに桜田淳子の起用も秋田つながりです、たぶん)

この本はヒロイン江波恵子の魅力に取り付かれた著者の柏倉康夫さんが、解説を入れながら『若い人』を紹介していきます。時代背景や当時の石坂の状況なども説明され、それでかなりわかりやすく読むことができました。正直、いきなり原作を読んだらわからなかたっと思います。まして中高生時分だったら。
江波恵子は、たしかに魅力的です。でもそれは危険な魅力で、彼女の行動は臨床心理学でいうところの境界例の典型だという論文もあるそうです。

この本の装丁の依頼を受けたときには驚きましたが、いままで読めなかった地元に縁のある小説を知る喜びもありました。
依頼はかなり早い段階にあり、本文組の指定から写真の扱いやカバーまわりまで、ほとんどまるごとデザインすることになりました。

タイトルが長くて表1での扱いがかなり難しく、3行にする案もあったのですが、大きく見せたいということでオビにかけて2行に。書体は筑紫オールド明朝。古い活字のような美しさがあり、細部がキレイなので拡大しても使いやすいのです。本文書体もこれです。
カバーはかすかなエンボスを感じる新局紙という紙に薄ピンク色を引き、ポイントでパープルを使うことでほんのり女性らしさを感じさせようと思いました。オビにもパープルを使っています。オビの用紙はクラシックな印象のあるパミスです。カバーの原稿用紙の写真が古いものなので、古くさくならないように透明感のある純白にしました。

表紙は花の文様を全面に使いました。
実はカバーの別案としてこの花文様の案も出していたのですが採用されず、表紙で復活です。こちらだったら古い文学作品の雰囲気は出たけど、透明感は出なかったですね。
しおりと花ぎれは赤にしました。

江波恵子のような女性の存在とそれに翻弄される男というのは、いまも変わらずあるテーマだと思います。ぜひこの本が読まれて『若い人』も復活してほしいです。

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