2015年5月31日日曜日

装丁展のこれまで<7>「見えないタイトル」装丁展(2010)B


「見えないタイトル」装丁展図録(デザイン:武中祐紀)


装丁展のこれまで<6>からつづく)

オーパ・ギャラリーでの2回目の「見えないタイトル」装丁展は、白畠かおりさんと武中祐紀くんの協力で、なんとか開催にこぎつけた。
このときは、いままでにない展示にするためにずいぶん知恵を絞ったのだが、それにはそのときの状況が関係する。

昔の作品を振り返る、という意味でPlay BackをもじってPLAYBAKU文庫とした。マークは白畠作「見返りバク」


この時期のことを時系列でまとめてみると

・2006年:カヴァーノチカラ展/SPA
 (ここ最近の装丁展の源流。経緯についてはこちら 
 (紙の専門商社の竹尾、箔の会社の村田金箔の協力で、 
  特殊紙と2種類の箔を贅沢に使って宮沢賢治作品のカバーを 
  制作/展示したもの。折原も参加) 
・2009年:折原個展「ミステリ文庫殺人事件」展 
・2009年:カヴァーノチカラ3[装画の力]展/SPA 
 (ひとりの装画家が描いた絵を3人の 装丁家が装丁にする
  という展示。折原も参加)

さらには、2010年10月にSPAの「手塚治虫を装丁する展」、12月にはギャラリーまぁるによる「不思議の国のアリス」装丁展もあった。
つまり、カヴァーノチカラ的「装丁展」が、あれこれ出てきた時期といえる。

なので、09年の夏に予定している自分たちの展示では、なにかひと工夫しないと面白く見てもらえないだろう、という思いがあったのだ。

ちょっとひねりすぎかもしれないが、自分たちも楽しめたし良かったと思っている。
そして2年後に意外なところで、同じ発想の企画を見ることになった。

紀ノ国屋書店「ほんのまくら」フェアだ。

これは出だしの一文が書かれたカバーと、POPの推薦文をたよりに本を選んでもらうというフェア。一時、よく話題になったので覚えているひともいるかもしれない。

タイトルと著者名を隠して、他の情報から本を選ぶというアイデアは同じ。けれど、担当者が「見えないタイトル装丁展」を知っていたわけではないだろう。
内沼晋太郎氏の『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)という元ネタが同じだったのだ。(担当者のインタビューにあった)

別角度から光を当て、本との出会い方を変え、新たな本に手を伸ばしてもらおうという考え方は同じ。「出だしの一文」と「装丁」の違いだけだ。それにしても、まさか同じ発想の企画を見るとは思いもしなかった。
自分も以前は書店に勤めていたので、似てしまうのだろうか。

カバーデザインのしおりも前回からひきつづき実施
お礼状代わりなのでサンキューしおりと呼んでいた


見返りバクのバッジ

作業が間に合わず展示会場でせっせとバッジを手作りする

この展示も、前回に負けないほどの来場者があった。(3人展だから当然ではあるが)

白畠さんと武中くんは、SPAのものをのぞけば展示会が初めてということもあるのか、自分の選んだ本を自分で装丁するという喜びにあふれていて、力のこもった作品が多かった。 実際、作品の売上げや、しおりの人気度もそれを反映していた。
ふたりには翌々年からまた一緒に展示をしてもらうことになった。

そしてフジナミさんからの翌年のオファーも(やっぱり)あり、終わったとたんに、さあ来年の展示どうする? という状態に。もちろんアイデアはすぐに湧いてこない。

そしてまたもや考え続け、ひらめいたのは「星新一」。
それは翌年、星新一トリビュート装丁展として形になった。

装丁展のこれまで<8>につづく)

2015年5月28日木曜日

装丁展のこれまで<6>「見えないタイトル」装丁展(2010)A


装丁展のこれまで<5>からつづく)

はじめての個展「ミステリ文庫殺人事件」がおわり、なんとか片付いたころ、フジナミさんからまたも声がかかった。

「来年もどうでしょう?」

むむ…素直にうれしくありがたいのだがこの時点ではノーアイデア、考える時間も前ほどはないわけで、できそうな気がしない。
とはいうもののせっかくのチャンス、少し考えさせてもらうことにした。

前回がミステリーだから、今度はSFで、というのはよく言われたのだけど、同じようにできるほど、SFにはのめり込んでいなかった。

じゃあどうする…

というようなことを、白畠かおりさんと武中祐紀くんと3人で酒を飲みながらだらだら話していた。

ふたりは図書設計の仲間であり、三軒茶屋のご近所友だち。
よく近所で飲んだり食べたりしていた。そして、こういうことを面白がってくれるデザイナー仲間でもあった。
三人寄ればなんとやら…
協力者がいればできるかもしれないと、相談をもちかけたのだ。

結果的にはこのときできあがった展示は、いままでの中でもっともユニークなものになったと思う。
(某書店に同アイデアの企画があるが、それについては後述)

かなりギリギリまで考え続けて出てきたのは

<タイトルと著者名を隠す>

というアイデアだった。

本にとって一番大事なタイトルと著者名を隠されることで、見たときにとても不思議な気持ちになるだろう。そんな不思議な感覚を味わってもらうのも面白いんじゃないか、というのが狙い。

これは内沼晋太郎氏の『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)という本からインスピレーションを得ている。

『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)

この中で「文庫本葉書」や「Her Best Friends」「Her Favorite Things」といったプロジェクトが紹介されている。
いずれもどうやって本を読まない人に本を届けるかということを目的に、本をクラフト紙でくるんで見えなくした上に包み紙に中の一文をプリントしたり、本をセレクトした人の趣味とかプロフィールを頼りに中身を見ないで購入してもらったりするものだ。
トリッキーな企画だが、けっこう受けたという。

装丁を変えることで本との新しい出会いをつくりたい、というのがぼくの装丁展のひとつの目的でもあるので、内沼氏のプロジェクトには通じるものがある。

じゃあこちらは、タイトルと著者名を隠して絵柄だけで選んでもらったら…
広いオビだと隠せるけど、それだとカバーデザインの意味がないしetc.…
そして考えたのがこれ。


表1~背~表4にかかるオビ。
CDのオビと同じ仕組みだ。
表1側のタイトル・著者名は、背の近くに統一した。


オビをつけたままカバーを広げるとこうなる

オビをはずしたところ。表1と背に共通のデザインでタイトル・著者名を配置

四隅のツメを折ってカバーにひっかける仕組み

3人で10冊づつおすすめの本を選び(ジャンルは何でもいいが展示しやすいように文庫本に限定)カバーをデザインして、引用文と推薦文をプリントしたオビでタイトルと著者名を隠す。来た人には装丁とオビの情報だけで本を選んでもらう。 
そして「見えないタイトル」装丁展と名付けた。
つくっているあいだは、見たことのないユニークな展示になる、とワクワクした。

棚板に置いたものは手に取れるが、ビニールでくるんであって外せないようになっている

左:武中作品、右:折原作品

白畠作品

左:折原作品、右:白畠作品。偶然にもデザインが似てしまったシンクロニシティ

実際、ユニークなものになったと思う。

この展示も多くの人に集まってもらえた。
面白がる人が多かったが、とまどう人もいたし、評価はさまざまだった。
でもそれはこういうことをすれば、当然のことだ。

このときは、見たことのないかわった展示にするため特に知恵を絞ったのだが、それにはそれなりのワケがあった。

装丁展のこれまで<7>につづく)

2015年5月16日土曜日

竹永絵里個展「あの人に贈るハンカチ展」




竹永さんとは、ボールペン手帳イラストの本で一緒にお仕事をしましたが、はじめて会ったのは今回展示しているオーパ・ギャラリー。
3年前私は「本と旅」という展示を企画していて
ちょうどそのころにオーパ・ギャラリーに行ったとき、
旅の絵の展示をしていたのが竹永さんでした。

竹永さんの絵は、奇をてらうところがない素直な作風で
上から目線でもなく下から目線でもない
フラットに正面から届けられるような絵です。
その作品に新鮮な気持ちになり
「本と旅」の絵を依頼したのが最初でした。

その時に描いてもらった世界の衣装は、翌年の竹永さんの展示のテーマとなりました。

オーパ・ギャラリーでの3年目となる今年の展示のテーマは「ハンカチ」です。

それも自分がハンカチを贈りたい人を設定した、ちょっと変わったテーマになっています。
贈る相手も、パン屋をしている友人や亡くなったおじいさま、ファンであるPerfumeなど、身近な人から憧れの人など多彩です。

この1年のあいだに竹永さんの名前で本が3冊出ました。
スゴイことです。人気作家並みですね。
なんだかスルスルと駆け上がった感じですが(というかまだ途中だと思いますが)、彼女の実力とセンスと努力の賜物なのはいうまでもあるません。

今回の展示も、ただイラストを展示するのではなく、「自分のイラストの使い方」を展示するということをしています。
一見、ただハンカチにプリントしただけのように見えますが、「日々使うハンカチにして、あの人に贈りたい」と自分の絵の使い方まで考えていることがわかります。

余談ですが、私もイラストを額に入れて飾るのではなく、シャツとして所有して日々使ったらどうだろうと考え、知り合いにシャツに手描きイラストを描いてもらったりしています。なので、今回の竹永さんの展示には、とても共感を覚えました。

これからの活躍がとても楽しみです!


 




2015年5月3日日曜日

装丁展のこれまで<5> 「ミステリ文庫殺人事件」展(2009)B


『あなたに似た人』(ロアルド・ダール)展示用カバー(装丁=折原カズヒロ)と
ノベルティのしおり

装丁展のこれまで<4>からつづく)

「ミステリ文庫殺人事件」展でこだわったのは、作ったオリジナルカバーを実際の文庫本にかけること。


カヴァーノチカラ展では、諸般の事情でカバーを束見本にかけて展示した。
だが、いいなと思って本を手に取ったら中身は真っ白…ということになるわけで、これはちょっと寂しい。


だから自分の展示では、手に取ったら読めるという状態にしたかった。それがやはり、本として当然の姿だと思うのだ。「装丁」は「本」あってのものだ。


デザイン上のことでは、使用した和文フォントは「游ゴシック体B」1種類だけにしたこと。
小ぶりでほどよく角に丸みがあり、クラシックな雰囲気がマッチすると思い、これひとつだけ購入した。

レトロなゴシック体がいい雰囲気

そしてこのとき、装丁以外にもこだわって作ったものがある。


ひとつは図録。
短い展示期間だと来られない人も多いが、これがあればあとで紹介するのも簡単だし、記録としても役に立つ。
他の展示会ではあまり見かけることがなかったが、図録を制作するには展示作品を早めに仕上がる必要があるからだろうか。作品に時間をかけたいという気持ちはわからないでもない。
だけど自分が見る側のときも、気に入った展示のときはなにか手元に残しておきたいけど作品を買うには金銭的にもスペース的にも余裕がなく、図録があればいいのにと思うことが多かった。
(カヴァーノチカラ展では図録を作らなかったことが反省点だった)

このときの図録。A5判16ページ

図録中面

もうひとつは、来場者に差しあげる「しおり」。
これは、イラストレーターのBOOSUKAさんが展示のときに、お礼状を後で送るのではなくその場で手渡していたのをヒントにしている。その場でもらって帰れるものがあるのはいいなと思ったのだ。
そして、装丁展ならしおりだな、と。

どうせなら全30種類の装丁のデザインで作り、気に入ったものを持ってかえってもらおう。そうすれば、どれが人気なのかもわかる。
来場者は気軽に感想を言ってくれる人ばかりではないのだが、しおりを渡すとほとんどの人は嬉しそうに選んで、あれこれ話してくれた。

並べて印刷して、自分でカットした

カバーデザインをそのまま利用


このふたつは、それ以降の装丁展でもつづけている。
このときは勝手がわからず図録を大量に作ってしまい、いまだにどっさり残っているのがちょっと哀しい…

*

作品を展示するのは初めてだったが(カヴァーノチカラ展はあったが)、イラストも使わずひとりで全部作り(写真は撮影してもらった)このときは勢いがあったんだなと、いま思う。

考えてみるとオリジナル装丁の個展というのは、最近ではこれだけかもしれない。
自分でもその後は仲間と組んでのグループ展が中心になった。

制作中は思い通りにいかないこともあったが、終わったあとは思わぬ好評もあって充実感があった。ふつうは展示会の初日に達成感があるのだろうが、受けるかどうか半信半疑のままだったので、「開催おめでとうございます」と言われても開催中はピンと来なくて、最後まであまりめでたい感じはなかった。

こういう機会を与えて自由にやらせてくれたフジナミさんには、感謝するほかない。

そして一段落したところで、フジナミさんからまた声がかかった。

「来年もどうでしょう?」

………え? いや、もうネタが……