2015年4月30日木曜日

『流沙の塔』


作家の船戸与一氏が先日亡くなりました。

だいぶ前ですが、1作だけ装丁を担当したことがあります。
『流沙の塔』(朝日文庫)
2000年の本なので、もう15年前になりますね。
その後徳間文庫からも刊行になったようですが
どちらも品切れのようですね。

砂漠の写真と、エスニックな模様をつくって組み合わせてデザインしました。

船戸氏のご冥福をお祈りします。

2015年4月29日水曜日

装丁展のこれまで<4> 「ミステリ文庫殺人事件」展(2009)A


「ミステリ文庫殺人事件」DM 写真:林和美



装丁展のこれまで<3>からつづく)


「うちでもなにか、装丁の展示をやってみませんか」

カヴァーノチカラ展のあとに、オーパ・ギャラリーのフジナミさんに声をかけられた。

オーパ・ギャラリーは主にイラスト作品を展示しているギャラリー。事務所からすぐ近くでぼくはたびたび足を運び、オーナーのフジナミさんとよく話をさせていただいた。

カヴァーノチカラ展のあとには、それについていろいろ話していて、その流れで出てきた言葉だったと思う。

「なにか」といわれても、そのときは何のアイデアもなかったのだが、思いついたらでいいということで、それからあれこれ考えてみた。

自分で装丁展をするなら、自分の好きな本を装丁したい。
ただ好きな本を並べても面白くなりそうな気がしなかった。なにか面白い切り口はないか、とぐるぐる考えて時間が過ぎ、「ミステリー文庫」というテーマを思いついたのは2年近くたってからだ。
それが実現したのが2009年の8月だから、第1回カヴァーノチカラ展からは2年半。われながらずいぶん時間がかかったと思う。フジナミさん申し訳ない…

だけど、テーマを思いついてからは早かった。
自分が中高生のころに読んでいたもので、なじみもあるし統一性もある。
自分が読んでいたころのハヤカワ・ミステリ文庫や創元推理文庫は、田中一光や北園克衛など錚々たるデザイナーたちによる装丁でとても印象的だった。そのテイストを出せればおもしろいものにできるかもしれない。

かつての創元推理文庫。装丁は左上から時計回りに田中一光、田中一光、杉浦康平、中垣信夫、
日下弘、日下弘、金子三蔵、金子三蔵

かつてのハヤカワ・ミステリ文庫。わりあい最近までこのカバーも使われていた。
装丁はすべて北園克衛

出版社に許可を取りつつ、もう手元からなくなってしまった本を集め、30冊の本の装丁を一気に仕上げた。
同じデザインのバージョン違いのようなものがあるのも、昔のミステリー文庫にならったということもあるが、短時間で一気に仕上げたせい、というのはあんまり大きな声では言えない…

いきおいづいて、自分を死体に見立てて撮影までしてしまった。それは装丁にも活かしたのだが、今思うと力入れすぎの感も否めない。(そのあとTwitterのアイコンにしたりもしたので、まあいいか)

『オリエント急行の殺人』(A・クリスティー)展示用カバー(装丁=折原カズヒロ)


『そして誰もいなくなった』(A・クリスティー)展示用カバー(装丁=折原カズヒロ)

登場人物表も掲載。できる限り本物の文庫に近づけた

この1冊はリバーシブル仕様。裏面にはタイトルが入っていない

「ミステリ文庫殺人事件」と名付けたこの展示には、自分としては想定外に多くの人に来てもらった。そして思った以上に楽しんでもらえたと思う。
「この本は本屋で買えないの?」とよく聞かれた。(光栄だ!)
オリジナル装丁なんてものはほとんど知られてないのだから(カヴァーノチカラ展があったとは言え)、飲み込みづらいのも当然。
このときは「リメイク装丁」と名付けていたが、飲み込みづらさはたいしてちがわなかっただろう。
それでもぼくのデザインも、「装丁をリメイクする」ということも、面白がってもらえたと思う。

2015年4月27日月曜日

装丁展のこれまで<3> カヴァーノチカラ展(2006)B

カヴァーノチカラ展のために折原が制作したカバー。上は『二十億光年の孤独』(写真も)、下は『木を植えた人』(絵:山本祐司)



装丁展のこれまで<2>からつづく)

カヴァーノチカラ展は、時間がない中、特急で進んでいった。

「カヴァーノチカラ」という展示名は、のちに会長になるミヤガワさんが名付けた。

最終的には、ジャン・ジオノ作『木を植える人』と谷川俊太郎作『二十億光年の孤独』の2冊がテーマとなり、50人の装丁家と41人の装画家が100冊の本を制作することになった。

著者の谷川氏に推薦文を依頼したところ、「文章を書くより、詩を書く方が早い」と書き下ろしの詩を書いてくれた。

賛助の会社からは用紙とオフセット印刷の提供があった。

展示什器は会員の知人の建築家が、再生処理のしやすいダンボールで制作してくれた。

そして、カヴァーノチカラ展はオープンした。

来場者は最終的に1500人を超えた。想像を遥かに超える成果だった。

 *詳細はこちら→SPA「カヴァーノチカラ」

カヴァーノチカラ展目録。デザイン:小島トシノブ/カバービジュアル:小林真理

来場者からの反応もよく、面白かったという声をたくさん聞くことができた。ふつうは何パターンもの装丁を一度に目にすることはなく、新鮮に感じてくれたようだ。
装丁家・装画家のほうも一般の人の反応をダイレクトに受け取ることはあまりなく、そうした声を聞くのが楽しみだった。
仕事ではない装丁を作るのは新鮮な喜びだったし、同じ本なのにこんなにも違う印象になる、ということを目にすることができたのもよかった。

思いついたとしても、それだけでは実現はできなかっただろう。このときの実行委員会の強力なマンパワーがあればこそあちこちから協力を得ることができたのだと思う。

デザインジャーナリストの臼田捷治氏は、展示に寄せた文章の中で
「いい意味での〈青っぽさ〉を律儀なまでに守っている協会らしい」企画だ、と書いている。
たしかにプロっぽい企画ではない。それを成立させたのは、逆にプロがてらいなくやったからこそではないだろうか。同業者の集まりがとても心強く感じられた。

そして図書設計は2008年に続編となるカヴァーノチカラ2「箔力展」という展示を行い、その後も「手塚治虫を装丁する」「製本ノチカラ」などオリジナル装丁展を続けていく。

2012年に図書設計が開催した「東京装画賞」も(コンペではあるけれども)オリジナルのカバーを制作するという点を考えれば、この流れの中にあると言ってもいい。

図書設計が2008年以降に行ったカヴァーノチカラ展の図録の一部

それだけ波及効果があったということだろう。

その波は第1回カヴァーノチカラ展を見たオーパ・ギャラリーのオーナー、フジナミさんにも及んでいた。

装丁展のこれまで<4>につづく)

2015年4月22日水曜日

装丁展のこれまで<2> カヴァーノチカラ展(2006)A

カヴァーノチカラ展DM(デザイン:小林真理)


装丁展のこれまで<1>からつづく)

初めて個人で装丁展を開いたのは2009年の7月。

その前にまず、ぼくの展示も含めてさまざまな装丁展に影響を与えた「カヴァーノチカラ展」を振り返ってみよう。
これがなければその後の装丁展はなかったと言ってもいい。

さかのぼること3年、2006年のこと。

そのとき所属していた日本図書設計家協会(以下図書設計)では、大規模な展示会を企画していた。
図書設計は装丁に関わる仕事をしている人々(主に装丁家と装画家)が集う団体。紙やインクなど本に関するものを扱う会社も賛助として加盟している。年に1、2度、会員たちの仕事での装丁作品を集めて展示会を開いていた。

その年は日本橋にあるDIC COLOR SQUAREという大きな展示会場を押さえ、せっかくなのでそれに合わせてオリジナルの企画展(仕事の作品展示ではなく)にしようということになった。

しかし会場は今までにない大きさで、資金も人員も時間も足りなかった。オリジナル企画展は未経験だったということもあり、なかなかいい企画が立たずに時間だけが過ぎていく。次第に手詰まり感が漂い始めた。
そこで担当の委員会だけではなく、他の委員会も駆り出し臨時の実行委員会を作り、アイデアを出しあうことになった。

ぼくも当時、運営委員のひとりとしてその会議に出る予定だった。
会議の前に、カフェで出版委員長のコジマさんたちと雑談をしながら、ひとつのアイデアを話してみた。
「既存の本に架空のカバーをみんなで作って展示する」というものだ。
ポイントは、「装丁」にフォーカスすること。
テーマは1冊の本だが、それをさまざまな装丁で展示することで、1冊の本が装丁ひとつでちがった表情になることを表現できる。装丁の協会なのだから、装丁を打ち出すのがベスト…といえば聞こえはいいが、単純にひとつのテーマでいろんなひとの装丁を並べて見てみたかったのだ。
同じ本をあの人やこの人は、どんな風に装丁するんだろう?

幸いその人員は豊富にそろっている。
資材も賛助会員の協力でなんとかなるんじゃないか。
ほかに妙案はなく、コジマさんは
「あ、いいじゃん、ウチの委員会からはそのアイデアを出すってことで」とほっとした様子でコーヒーをすすった。

そこで会議でその案を話してみた。
みんな少し考えて
「それなら印刷は賛助会員に協力してもらって」
「カバー用紙も提供してもらえるだろうか」
「束見本はどうする」
…とその案について話が弾んでいった。

実際のところ、絶対に実現しようとか、実現できると思って話したわけじゃなく、ただの思いつきだったのだが、そのようすから、おお、これはひょっとすると…とワクワク感がわいてきた。ほかのメンバーも、だんだんこれでいけるんじゃないか、という雰囲気になってきた。

そしてそれは、11月に実現したのだ。
カヴァーノチカラ展はここからスタートした。

 *カヴァーノチカラ展詳細はこちら→SPA「カヴァーノチカラ」

装丁展のこれまで<3>につづく)

装丁展のこれまで<1> オリジナル装丁展



装丁を展示をする──

いまではそれほどではないけれど、10年ほど前はかなり珍しいことだったと思う。
そもそも「装丁展」といったら、装丁家=ブックデザイナーが仕事での自作を展示することがたまにあるくらいで、オリジナルな装丁を作って展示することなどほとんど見られなかった。
(仕事での展示の片隅にオリジナル装丁を試作しているのを一度見たことがあるくらいだ)

そう、ここで話題にしたいのは「オリジナルな」装丁展のことだ。
既存の書籍に、独自の装丁を試作して見せる──
そうした展示会は、ここ数年はあまり珍しくなくなった。
それには、ひとつのきっかけがあったと思う。

ぼくも毎年夏にそうした展示を行っていて、2014年で6回目を数えた。


だいぶ回を重ねたこともあるし、ここらで一度「装丁展」について整理してみようと思う。

1回目から6回目までの図録

自分の装丁展では、テーマの設定にいつも苦労してる。
絵描きなら自由に描いたものを並べるだけで立派な展示になるが、装丁の場合は本の選び方に何か切り口が必要だ。安易なテーマでは展示の強度が保てない。
いつも、ギリギリまで知恵をしぼっていた。

いや別に、苦労話をしようというわけじゃない。
むしろ毎回悩んだ分以上に楽しんでいるのだから。

苦労話ではなく、自分を含め様々な装丁展が見られるようになったこれまでの流れについて書いてみたい。
そうすることで、自分でもいろいろ見えてきそうな気がしている。

まずは、現在の装丁展の源流になった「カヴァーノチカラ展」について──

装丁展のこれまで<2>につづく)

2015年4月6日月曜日

『大人のためのビジネス英文法』


こちらは3月に刊行になった
畠山雄二=著『大人のためのビジネス英文法』(くろしお出版)

装丁と本文デザインを担当しました。
「大人のための」とありますが、ビジネスで使われる
英文法について書かれた本です。
ジョブズのスピーチなど生の素材を使った例文や、
著者の軽妙な語り口もあり、堅苦しさはありません。
カバーもあまり難しそうな雰囲気は出さないように
ヤギワタルさんのイラストを配しました。
キャッチコピーにかけてスパイスを入れています。

当初、本文イラストに、ということでヤギさんを推薦したのですが
なんと、著者がヤギさんの大ファンだということがわかりました!
ヤギさんはたしかに最近活躍しているイラストレーターですけど
そんな偶然ある? 自分の絶妙の手配にビックリです。
いやー、才能あるのかな。
(もちろん偶然。才能あるのはヤギさんだ)

カバーは、あまり窮屈にせずゆったりめのレイアウトで。


オビはつけずにカバーの下部に情報を刷り込もうという案だったのですが
もっと目立たせたほうがいいということで、真っ赤なオビを巻きました。

本文には先頭に基本の引用文があったり、例文があったり少し複雑。
ヤギさんの絵がわかりやすさを助けています。