はじめての個展「ミステリ文庫殺人事件」がおわり、なんとか片付いたころ、フジナミさんからまたも声がかかった。
「来年もどうでしょう?」
むむ…素直にうれしくありがたいのだがこの時点ではノーアイデア、考える時間も前ほどはないわけで、できそうな気がしない。
とはいうもののせっかくのチャンス、少し考えさせてもらうことにした。
前回がミステリーだから、今度はSFで、というのはよく言われたのだけど、同じようにできるほど、SFにはのめり込んでいなかった。
じゃあどうする…
というようなことを、白畠かおりさんと武中祐紀くんと3人で酒を飲みながらだらだら話していた。
ふたりは図書設計の仲間であり、三軒茶屋のご近所友だち。
よく近所で飲んだり食べたりしていた。そして、こういうことを面白がってくれるデザイナー仲間でもあった。
三人寄ればなんとやら…
協力者がいればできるかもしれないと、相談をもちかけたのだ。
結果的にはこのときできあがった展示は、いままでの中でもっともユニークなものになったと思う。
(某書店に同アイデアの企画があるが、それについては後述)
かなりギリギリまで考え続けて出てきたのは
<タイトルと著者名を隠す>
というアイデアだった。
本にとって一番大事なタイトルと著者名を隠されることで、見たときにとても不思議な気持ちになるだろう。そんな不思議な感覚を味わってもらうのも面白いんじゃないか、というのが狙い。
これは内沼晋太郎氏の『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)という本からインスピレーションを得ている。
『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)
この中で「文庫本葉書」や「Her Best Friends」「Her Favorite Things」といったプロジェクトが紹介されている。
いずれもどうやって本を読まない人に本を届けるかということを目的に、本をクラフト紙でくるんで見えなくした上に包み紙に中の一文をプリントしたり、本をセレクトした人の趣味とかプロフィールを頼りに中身を見ないで購入してもらったりするものだ。
トリッキーな企画だが、けっこう受けたという。
装丁を変えることで本との新しい出会いをつくりたい、というのがぼくの装丁展のひとつの目的でもあるので、内沼氏のプロジェクトには通じるものがある。
じゃあこちらは、タイトルと著者名を隠して絵柄だけで選んでもらったら…
広いオビだと隠せるけど、それだとカバーデザインの意味がないしetc.…
そして考えたのがこれ。
表1~背~表4にかかるオビ。
CDのオビと同じ仕組みだ。
表1側のタイトル・著者名は、背の近くに統一した。
オビをつけたままカバーを広げるとこうなる
3人で10冊づつおすすめの本を選び(ジャンルは何でもいいが展示しやすいように文庫本に限定)カバーをデザインして、引用文と推薦文をプリントしたオビでタイトルと著者名を隠す。来た人には装丁とオビの情報だけで本を選んでもらう。
そして「見えないタイトル」装丁展と名付けた。
つくっているあいだは、見たことのないユニークな展示になる、とワクワクした。
白畠作品
実際、ユニークなものになったと思う。
この展示も多くの人に集まってもらえた。
面白がる人が多かったが、とまどう人もいたし、評価はさまざまだった。
でもそれはこういうことをすれば、当然のことだ。
このときは、見たことのないかわった展示にするため特に知恵を絞ったのだが、それにはそれなりのワケがあった。
(装丁展のこれまで<7>につづく)
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