「ミステリ文庫殺人事件」DM 写真:林和美
(
装丁展のこれまで<3>からつづく)
「うちでもなにか、装丁の展示をやってみませんか」
カヴァーノチカラ展のあとに、オーパ・ギャラリーのフジナミさんに声をかけられた。
オーパ・ギャラリーは主にイラスト作品を展示しているギャラリー。事務所からすぐ近くでぼくはたびたび足を運び、オーナーのフジナミさんとよく話をさせていただいた。
カヴァーノチカラ展のあとには、それについていろいろ話していて、その流れで出てきた言葉だったと思う。
「なにか」といわれても、そのときは何のアイデアもなかったのだが、思いついたらでいいということで、それからあれこれ考えてみた。
自分で装丁展をするなら、自分の好きな本を装丁したい。
ただ好きな本を並べても面白くなりそうな気がしなかった。なにか面白い切り口はないか、とぐるぐる考えて時間が過ぎ、「ミステリー文庫」というテーマを思いついたのは2年近くたってからだ。
それが実現したのが2009年の8月だから、第1回カヴァーノチカラ展からは2年半。われながらずいぶん時間がかかったと思う。フジナミさん申し訳ない…
だけど、テーマを思いついてからは早かった。
自分が中高生のころに読んでいたもので、なじみもあるし統一性もある。
自分が読んでいたころのハヤカワ・ミステリ文庫や創元推理文庫は、田中一光や北園克衛など錚々たるデザイナーたちによる装丁でとても印象的だった。そのテイストを出せればおもしろいものにできるかもしれない。
かつての創元推理文庫。装丁は左上から時計回りに田中一光、田中一光、杉浦康平、中垣信夫、
日下弘、日下弘、金子三蔵、金子三蔵
かつてのハヤカワ・ミステリ文庫。わりあい最近までこのカバーも使われていた。
装丁はすべて北園克衛
出版社に許可を取りつつ、もう手元からなくなってしまった本を集め、30冊の本の装丁を一気に仕上げた。
同じデザインのバージョン違いのようなものがあるのも、昔のミステリー文庫にならったということもあるが、短時間で一気に仕上げたせい、というのはあんまり大きな声では言えない…
いきおいづいて、自分を死体に見立てて撮影までしてしまった。それは装丁にも活かしたのだが、今思うと力入れすぎの感も否めない。(そのあとTwitterのアイコンにしたりもしたので、まあいいか)
『オリエント急行の殺人』(A・クリスティー)展示用カバー(装丁=折原カズヒロ)
『そして誰もいなくなった』(A・クリスティー)展示用カバー(装丁=折原カズヒロ)
登場人物表も掲載。できる限り本物の文庫に近づけた
この1冊はリバーシブル仕様。裏面にはタイトルが入っていない
「ミステリ文庫殺人事件」と名付けたこの展示には、自分としては想定外に多くの人に来てもらった。そして思った以上に楽しんでもらえたと思う。
「この本は本屋で買えないの?」とよく聞かれた。(光栄だ!)
オリジナル装丁なんてものはほとんど知られてないのだから(カヴァーノチカラ展があったとは言え)、飲み込みづらいのも当然。
このときは「リメイク装丁」と名付けていたが、飲み込みづらさはたいしてちがわなかっただろう。
それでもぼくのデザインも、「装丁をリメイクする」ということも、面白がってもらえたと思う。